性的な独占欲があるからこそ、祖先たちの貴重なDNAが守られ、愛するだれかのために時間とエネルギーのほとんどを費やすことができた。ところが、性的に誠実であってほしいという衝動とともに、もうひとつ、こちらはそれほど魅力的とはいえない恋愛の特徴がある。シェークスピアが、「緑の目をした怪物」と表現した嫉妬心だ。
アラビア伝説のなかでは、ライラは愛するマジュヌーンではなくほかの男性と婚約するのだが、やはり彼女も新婚初夜の床を拒んでいる。恋愛のあらゆる特徴のなかで、この性的な独占欲がいちばん興味深い。おそらくこの欲求が進化した理由はふたつあったのだろう。
ひとつは、男の祖先がを寝取られ、ほかの男の子どもを育てるはめに陥らないため。そしてもうひとつは、女の祖先にとって、夫となり、自分の子どもの父親となる男をライバルに取られないため。
密接な絆を育めるのは
嫉妬が愛を育てる宮廷恋愛のルールを説いた著書のなかで、カペルラーヌスはこう書いている。「嫉妬を感じない者には、愛する能力がない」彼は嫉妬を「愛の乳母」とよんだ。嫉妬には恋の炎を育む役割があると考えていたのだ。
約三OOO年前に書かれた中国の賢書のなかにもこんな警告がある。密接な絆を育めるのは、ふたりの人間のあいだにかぎられる。三人になれば、嫉妬が生じてしまう。性的なつながりより心のつながりただし性交渉と貞節を求める気持ちは、愛する人間と感情的に結ばれたいという気持ちほど重要ではない。
洞察力の鋭いこの聖職者の意見は正しかった。人類学者がさまざまな社会で恋愛について調査してみたところ、男女ともにー非常にー嫉妬深いという結果が出ているのだった。男も女も恋に落ちると、相手に「大好き」といってもらったり、花などのプレゼントを贈られたり、野球や劇場に連れていってもらったり、笑みを向けられたり、きしめられたり、ひたすら自分だけを見つめてもらったりするのを好むものだった。