求愛中のオスのライオンは、ごくわずかの餌しか手に入らないときも、それを愛するメスに差しだす。ジョージ・シャーラーが感動的な例を報告している。メスに求愛中のオスが、水たまりの近くで一頭のガゼルを見つけた。すると彼はメスへの求愛を中断し、その獲物を仕留めに向かった。
じらして、ねばって、手に入れる動物もねばり強い。大半の動物にとって、ライバルたちを蹴落として見こみのありそうな相手に求愛し、繁殖するチャンスは、生涯にほんの数回しか訪れない。だから、辛抱強くなる。
やがて彼はこの甘美なプレゼントとともにメスのもとへ戻り、彼女がそのすべてを平らげているあいだ、近くでじっと見守っていたという。「彼もまた腹を空かせていたことを考えれば、感動的で、印象的な出来事だった」思うに、誘引という脳の化学作用が、このオスの食欲に打ち勝ったのではないだろうか。
トラのオスは辛抱強い
トラのオスは辛抱強い。相手からいっときも目を離そうとしないのだーメスが尻尾をほんのかすかに揺らしただけで、オスはさっと注意を向ける。なかでもいちばん傑作なのは、トガリネズミの求愛行動だろう。このオスはさかりのついたメスを執拗に追いかけまわす際、その鼻先をメスのお尻にぴったり押しつけながら、俊敏に動きまわる。
ダーウィンは、蝶のなかにも熱心なものがいることに気づいている。「蝶の求愛行動は延々とつづくようである」と彼は書いている。「オスの蝶がメスの周囲をくるくると旋回しているところはたびたび目にするのだが、そのうちわたしのほうが疲れてしまい、求愛行動を見届けることができなくなってしまうのだ」。
たとえばキリンのオスは、受け入れてもらえるまで何時間でもメスを追いかけまわす。イオンのメスはオスに向かってごろごろとのどを鳴らし、オスの目の前で誘うように寝返りを打ち、いたずらっぽくオスを叩いたかと思うと、オスの手を拒むかのようにわざと遠ざかる。そんなじらしにひたすら耐えたオスだけが、この巨大な猫の背にまたがることを許される。